Z1の登場からちょうど10年を経た1982年の終わり頃、カワサキはモーターサイクル用としては世界初となる4ストローク並列4気筒DOHC4バルブエンジンのプロトタイプを開発しました。
GPZ900Rのために開発されたこのエンジンの排気量は908cc。冷却効率をより高めるために、シリンダースリーブが直接冷却液に触れるウエットライナーシリンダーが採用され、従来は2-3番シリンダーの間に位置していたカムチェーンは、エンジンのコンパクト化と吸排気の効率を高めるために左端へ移動されていました。
独特な形状をしたダイヤモンドフレームは、さまざまなテストを経てメインパイプにスチールの高張力鋼管を、シートレールにはアルミの角パイプを採用することに決定。これらは軽量化とマスの集中化にも貢献しました。そのほか、オートマチック・バリアブル・ダンピング・システム(AVDS)を装備したφ38mmのフロントフォークと、リヤのボトムリンクユニトラックサスペンション、16インチのフロントタイヤと18インチのリヤタイヤなど、足回りのスペックも次第に固められてゆき、できあがった車体はGPZ900Rに、軽快な操縦性と優れた安定性をもたらしたのです。
また、フェアリングについても徹底した考証が進められ、個性的なGPZ900Rのスタイリングを構築するとともに風洞実験が繰り返された結果、最終的なCD値は、驚異的とも言える 0.33を達成。85kW(115PS)を発生させるエンジンとあいまって最高速度は240km/h以上、0-400m加速は10.976秒という記録を生み出しました。Z1が世に出てから11年目。カワサキはGPZ900Rにより、再び「世界最速」の座を手にしたのです。
その後、1990年にフロントフォーク、ブレーキ、タイヤ/ホイールサイズの変更などのビッグチェンジを受け、1999年にはラジアルタイヤ、6ポットフロントブレーキキャリパー、ガス封入式リヤショックアブソーバーなど装備を充実。エンジンや車体、外観などには大きな変更を受けることなく、GPZ900Rは2002年までに累計80,000台以上が生産されました。
しかし、2003年、ついにGPZ900Rの生産終了が決定されました。世界的な排出ガスや騒音の規制に対して、現状のパフォーマンスを維持したまま対応する事が困難となったためです。開発コンセプト「新世代スーパースポーツ」を前面に掲げ、サイドカムチェーンやエアロダイナミクスなど、現在のスーパースポーツモデルでは当たり前となっている装備をおよそ20年前に実現していたGPZ900Rは、まさにモダンスーパースポーツの扉を開けたマシンだったといえるでしょう。